助け合いの精神が誰にとっても暮らしやすい社会をつくっていく。

玉川高島屋S・Cが、公益財団法人日本盲導犬協会と共に定期的に開催している「盲導犬ふれあい広場」。多くの人に盲導犬育成事業や視覚障害に対する理解を深めていただくため、1993(平成5)年から続けているチャリティーイベントです。今回は、公益財団法人日本盲導犬協会の広報・コミュニケーション部の普及推進担当・山本ありささんに、協会の活動内容とSDGsとの関わり、盲導犬のこと、盲導犬や視覚障害者の方を取り巻く現状と課題、展望などについて伺いました。

PROFILE

公益財団法人日本盲導犬協会

1967年(昭和42年)に「財団法人日本盲導犬協会」として設立。2010年(平成22年)には公益財団法人として内閣府に認可された。厚生省(現:厚生労働省)の認可を受けた日本で最初の盲導犬育成団体で、全国に4カ所の訓練センターを有する日本最大規模の協会。国際盲導犬連盟にも加盟し、グローバルな視野をもって、目の見えない人、見えにくい人が、行きたいときに行きたい場所へ行くことができるように、動物福祉の精神を尊重した盲導犬の育成・訓練を行っている。また、盲導犬訓練士の育成や、社会をよりよくするための普及推進活動、白杖歩行訓練や日常生活訓練等の視覚障害リハビリテーション事業などにも力を入れている。

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盲導犬育成事業とSDGs

――日本盲導犬協会の活動内容について教えてください。

山本さん :

目の見えない人、目の見えにくい人が、行きたい時に行きたい場所へ行けるようにすることで自立と社会参加を促すのが盲導犬育成事業の目的であり、SDGs10番目の目標(人や国の不平等をなくそう)にも通じる取り組みと考えています。

盲導犬協会という名称から、盲導犬の団体と思われがちですが、 “視覚障害リハビリテーション”という目の見えない人や目の見えにくい人の生活を豊かで暮らしやすいものにすることを目的としていることから、白杖の歩行や日常生活動作などの訓練についても対応しています。

協会では、盲導犬の育成に加え、SDGs11番目の目標(住み続けられるまちづくりを)とも合致する社会整備にも同時に取り組んでいます。協会の主な活動内容としては、次のようなものがあります。

・盲導犬の育成
・盲導犬訓練士・白杖歩行指導員の養成
・盲導犬育成に関する調査及び研究
・ケースに応じた視覚障害リハビリテーション訓練
・国内外の諸団体との連携・協力
・盲導犬の普及推進活動

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関係性こそが、盲導犬

――盲導犬の育成に際しては、どのようなことに留意されているのでしょうか?

山本さん :

盲導犬の育成では、「犬を含め、誰の犠牲の上にも立たず」をモットーに、犬が楽しく思えるような訓練を行っているので、向いていない犬を無理やり訓練して盲導犬にすることは絶対にしません。犬たちはそれぞれ性格が違い、盲導犬に適している性格の犬は全体の3〜4割です。全国にある4つの施設で輩出する盲導犬の数は、1年で30〜40頭ほどです。同時に訓練士の数を増やしていくことも、私たちの大切な役割と考えています。

また、盲導犬に向いている性格の犬を増やすには、繁殖から考えていくことが大切です。

わたしたちは、盲導犬の健康、性格、行動、学習能力などに関する遺伝的研究を大学の研究機関や専門家と協力して行うことによって、盲導犬の育成頭数を増やすことを目指しています。海外を含めた他の盲導犬育成団体とも協力し、繁殖犬の交換など、グローバルな視点から盲導犬の育成に取り組んでいます。

一方で、いくら盲導犬を訓練しても、目の見えない人、見えにくい人が盲導犬との歩き方や管理方法を習得していなければ、安全で快適な歩行にはつながりません。そうした指導に加え、周囲の人々の視覚障害や盲導犬に対する理解を深めていくことも、社会環境を整えていくという意味において不可欠であり、広く社会に向けた普及推進活動も重要な事業と位置づけています。

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訓練というより子育てに近い

――盲導犬は、どのように育てられるのでしょうか?

山本さん :

半年から1年ほど訓練しますが、カリキュラムが決まっているわけではありません。覚えなければならないことのゴールはあっても、教え方はその犬の性格に合わせた最適の形で行います。盲導犬は、1歳まで「パピーウォーカー」というボランティアの家庭に預けられますが、1ヵ月ごとのパピーレクチャーを通じて、私たち協会も、その犬の性格を把握します。1年後に協会に戻ってきて訓練が始まると、その犬の性格、成長後の変化等を再度、綿密に把握した上で訓練を進めていきます。訓練の途中で、その犬の性格に合わせて訓練方法を変えるということもあります。

訓練とはいっていますが、どちらかというと子育てや教育に近い感じで、その犬が理解するように教えることが大切です。犬が率先して楽しんで作業できるように、褒めることをベースに教えます。そのため、訓練士の高い技術と工夫が必要です。訓練で型にはめるような教え方をしてしまうと、せっかく犬たちの性格にいいところがあっても、それが潰されてしまう可能性があります。とにかく良いところをどんどん伸ばし、問題の行動があれば、起きてしまったことを叱るのではなく、正しい行動・表現ができるように教えていきます。

もちろん盲導犬歩行を希望している方とのマッチングも重要です。例えば、早く歩きたいという方に対しては、同じように早く歩くのが好きな犬を、都会で電車通勤するような方であれば、人混みを歩くのが楽しみで、些細なことは気にしない性格の犬を合わせるなど、常に最適のマッチングを考えます。このように犬の性格やユーザーとのマッチングを考えるため、当協会では、盲導犬になる割合が3〜4割なのです。

――盲導犬に適した犬種というのがあるのでしょうか?

山本さん :

“ハーネス”という道具を体に装着した時に、人も犬も楽な姿勢で歩けるサイズ感でいうと、大型犬が適しています。また、日本ではラブラドール・レトリーバーとゴールデン・レトリーバーが盲導犬として多く活躍していますが、彼らが選ばれる理由の一つは、見た目です。日本で最初に盲導犬になったのは、シェパードでした。海外では今も、シェパードなど、さまざまな犬種が活躍しています。しかし、さまざまな場所に出かける盲導犬としては、見た目が温和で親しみを感じやすいレトリーバー種が、日本では向いていたようです。人好きで楽しいことが大好き、人と一緒に何か作業することを素直に楽しめる犬種だという点も向いている理由といえるでしょう。

楽しいことを素直に楽しいと思える性格なので、訓練の際も、“もっとやろう、もっと教えて”と楽しく覚えてくれます。そもそも犬は楽しいこと(快)には近づくけれども、嫌なこと(不快)からは遠ざかる生き物です。嫌なことでもやるのは人間だけ(笑)。犬たちにとっては、訓練も遊びの感覚で楽しんでいるイメージです。

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盲導犬の存在を、当たり前の光景として

――玉川高島屋S・Cで行われている「盲導犬ふれあい広場」の活動についてお聞かせください。

山本さん :

1993(平成5)年から継続している歴史あるチャリティーイベントです。盲導犬というところで、まず興味を持っていただき、そこから目の見えない、見えにくい人に対する理解を深めていただくことを目的に、さまざまな企画を行っています。盲導犬や視覚障害について話す「デモンストレーション」やその年ごとの企画を行い、多くの方が立ち寄ってくださいます。

一昨年は、音楽活動をされている盲導犬ユーザーにお願いして、トランペットや三味線などのミニコンサートを開催しました。長く続けているので顔見知りの方も多く、毎回、楽しみにされています。そういう方たちからいただく応援の声が、私たちの力になっています。

――ショッピングセンターで開催する意義については、どのようにお考えですか?

山本さん :

本来、盲導犬は公共・民間に関わらず、不特定多数の人が利用する施設にはすべて入ることができるよう法律で定められています。しかし、まだまだ入店や入館を断られてしまうケースがあるので、盲導犬ユーザーが盲導犬と一緒に商業施設の中に当たり前のようにいる姿が、多くの人の目に触れることに意義があると考えています。

大きな企業の商業施設で行っている活動ということで信頼感につながり、関心のある方もない方も、興味を持つきっかけになっていると感じます。また、大企業の施設が盲導犬を受け入れているという事実は、社会の盲導犬受け入れの後押しにもなっています。

――盲導犬の受け入れ促進や普及推進活動の難しさは、どのように感じていらっしゃいますか?

山本さん :

盲導犬と一緒に行動している目の見えない、見えにくい人が、白杖を使用する目の見えない、見えにくい人や他のお客様と同様に、分け隔てなく店舗などの施設を利用できるようにしていくためには、まず第一歩として、盲導犬ユーザーがいろいろな場所に出かけて、お店や施設を利用し、普通の光景として、他のお客様にも見てもらう機会を増やしていくことが大切だと思っています。

実際に、盲導犬と一緒にいる姿を目にすることの影響力や効果はとても大きいです。もし初めてのお店で受け入れてもらえない場合は、私たち協会が間に入ってお店側の理解を促し、受け入れてもらえるようしっかりサポートするので、どんどん外へ出かけてほしいと思っています。

また、限られた人員で正しい情報をより多くの人に届けるためには、対面での活動だけでなく、メディアやSNS、オンラインでの発信にも力を入れることが大切だと感じています。しかし、今の社会は、古い情報や正しくない情報、マイナスイメージの情報はなかなか更新されず、残りやすい一方、正しい情報やプラスイメージの情報というのは、なかなか拡がりにくいため、発信にも工夫が必要だと思います。

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不便を強いられることこそが、“障害”

――今後の取り組み、展望についてお聞かせください。

山本さん :

現在も取り組んでいますが、今後、協会としてより力を入れていきたいのは、「教育」です。子供たちには、盲導犬を入り口に、小さい頃から盲導犬や障害について正しく伝えていくことで、将来の日本がより良い方向へ変わっていくきっかけになると考えています。困ることや手伝ってほしいことがある時はお互い様であり、目が見える・見えないに関わらず、助けたり、助けられたりする関係が大切だと理解してほしいと思います。

2019年からのコロナ禍の影響で、学校などへの訪問が難しくなりましたが、当協会では早急に対応環境を整え、オンラインによる授業を行ってきました。今年度は、「全国一斉盲導犬教室」という、オンラインで複数の学校に同時配信する試みを行ったところ、とても好評で、追加開催するほどでした。オンラインなら、地域を問わず開催でき、場合によっては同時開催も可能なので、より多くの子供たちに伝えることができます。

コロナ禍によってリアルな現場での開催が難しくなった一方、オンラインが広まったことで、協会としても選択肢が増え、今まで届かなかったところへ情報を伝えられる手応えも感じています。オンラインセミナーやYouTubeでの動画配信など、活発に行っています。もちろん実際に現場でリアルに感じてもらう良さもあるのですが、SNSや動画配信には気軽に見られるメリットがあるので、今後、コロナ禍が落ち着いたとしても、現場でのリアルな体験の良さは残しつつ、オンラインとのハイブリッドで普及推進活動を続けていきたいと思います。

――障害を持つ方が暮らしやすい社会をめざすために、本質的に何が必要でしょう?

山本さん :

2016(平成28)年4月に「障害者差別解消法」が施行されましたが、この法律は「障害の社会モデル」の考えに基づいて作られたものです。例えば、視覚障害者であれば、“目が見えない”ことが“障害”なのではなく、“社会の環境や仕組みが目の見えない、見えにくい人にとって過ごしやすく作られていないこと”こそが、障害の要因であると考えるのが「社会モデル」です。

障害のある人が特別で、その人たちのために特別な対応が必要だと考えるのではなく、初めから誰もが生活しやすい社会を創っていかなければなりません。それは、SDGsの取り組みにもつながるものですが、そのためには設備などのハード面はもちろん、ソフト面、つまり人の“心”が変わっていくことが必要です。

日本は、世界でもハード面の整備が進んでいる一方、ソフト面、つまり人の心、意識の部分では遅れているといわれています。ハード面の整備だけを進めたとしても、すべての人にとっての暮らしやすさにつながるとは限りません。一方にとっての便利が、もう一方の不便を引き起こす可能性もあります。例えば、目の見えない、見えにくい人が車道へ飛び出さないために必要な横断歩道の段差。これは車椅子利用者にとっては、障害の一つになりうるものです。ハード面を整えることはもちろん重要ですが、そこから先はソフト面、つまり人の力、支え合う心や“お互い様”という助け合いの精神を持って、みんなで暮らしやすい社会を築いていくことが大切だと思います。

――ありがとうございました。

SDGs(持続可能な開発目標)

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで決まった、2030年までの達成を目指す世界共通の目標です。SDGsは17のゴールと、その目標を達成するための具体的な169のターゲットで構成されています。先進国、発展途上国問わず国連サミットに参加する193の国が採択した国際目標であることから、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。