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施設内の緑地の新設・管理に携わる株式会社グリーン・ワイズさんの緑園に込めた想い

玉川高島屋S・Cは、1969(昭和44)年の開業当初から、本館屋上の全面緑化に取り組みました。その広大な屋上庭園の造成に携わったのが、株式会社グリーン・ワイズさんです。屋上庭園竣工から45年以上にわたり、施設内の緑地の新設・管理に携わってきた緑の専門家として、日々の植栽管理を通じて見えてくることや感じる変化、そして、緑園づくりに込めた想い、環境課題に対する考え方などについてお話を伺いました。

PROFILE

株式会社グリーン・ワイズ

1905(明治38)年、東光園として創業。造園土木、温室植物の栽培をはじめ、日本初の “貸植木業”を手掛ける。商業施設では日本初といわれる玉川高島屋S・Cの屋上庭園を施工、その後も西館の壁面緑化、マロニエコート(緑化の庇)の施工等、SC全体の緑地の新設・管理を継続。2002年、株式会社グリーン・ワイズに社名変更。創業100年を機に、「人と緑が共生できる環境づくり」を目指す緑化マネージメントを核とした環境重視の事業にシフト、環境共生社会の実現に向けた多彩な活動を展開する。日本空間デザイン賞大賞受賞(深大寺ガーデンレストランMaruta)、グッドデザイン賞受賞(茎道)など、受賞歴多数。

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環境共生モデルの先駆けとなった、屋上庭園

――1969(昭和44)年の玉川高島屋S・C(以下、玉川SC)開業後に行われた本館屋上の全面緑化については、当時、どのようなコンセプトで取り組まれたのでしょう?

高橋さん :

日本においてSCを出店すること自体、珍しかったと思いますが、二子玉川周辺の自然環境を活かすためにも、玉川SCは、屋上緑化を全面的に推し進めたいという強い熱意をお持ちだったようです。当時、弊社が提案した計画書には、「“空中に浮かぶ現代の理想郷”を創ることにより、今後の都市づくりや環境共生モデルとなる新たな環境舞台として、多くの人が集える“心地よい安らぎの未来空間”を創り出すことを目指す」とあり、持続可能な共生社会の実現に向けて行動するSDGsにもつながる考え方だったと思います。今でこそ、屋上緑化は当たり前のものとなりましたが、当時はまだ珍しい取り組みで、技術が確立されていなかったことから、緑化の実現は試行錯誤の連続だったと思います。

インタビューにご協力いただいた高橋さん(写真左)、竹内さん(写真右)

竹内さん :

屋上庭園は、玉川SCの開業から5〜6年後に完成したと、当時を知る担当者から聞いています。

高橋さん :

屋上緑化の場合、建物の耐荷重を考慮しなければなりません。そのため、土壌には当時の最新技術でもあった人工軽量土を使用しており、ぱっと見では分からないと思いますが土の厚さは40cmほどしかありません。

竹内さん :

今も植栽管理をしていると、当時の名残を見つけることがあります。我々の先輩方が工夫しながら、この庭園を造り上げていった様子が窺えます。お稲荷さん周りの樹木は、当時からほとんど変わっていないと思います。

――植物は成長するにつれて荷重も増えていくと思いますが、樹木選定も含めて留意されていることはありますか。

竹内さん :

竣工当初に植えられた楠木がありますが、地上なら、50年も経つと巨木になります。でも、屋上の場合、台風などで強風が吹くと折れやすいので、しっかりと枝を詰めて高さを抑え、上に伸びないようコントロールしながら、コンパクトに育てていきます。

高橋さん :

基本的に昔からある樹木は大切にしたいと考えています。40〜50年という年月が経つと、そろそろ寿命を迎える樹木も出てきますが、なるべく生かす方向で考え、土壌改良などを施しながら、見守っています。

竹内さん :

本館屋上庭園は、“フォレストガーデン” という名称で、高木、中木、低木が階層構造を成して森のようになっているので、季節の花や紅葉などの色づきが楽しめるように、四季折々の植物をデザイナーが選定しています。2019年には南館屋上庭園が改修されましたが、改修前の庭園では在来種の植物を使い、周辺環境との調和に配慮していました。この地域は多摩川の豊かな自然が広がっているので、そこから飛んできた鳥たちが休んだり、餌を啄んだり、というようなエコロジカルネットワークを意識しながら、実のなる植物を植えるなど、人も鳥も楽しめるような植栽計画を立て、庭それぞれのテーマや雰囲気に合わせた樹木選定を行っています。これほど樹高のある木が植っている屋上庭園はなかなかないですし、森のような趣は、50年という歳月が生み出した最大の魅力だと思います。

南館7F PARK&TERRACE OSOTO

――開業40周年を記念してオープンした別館「マロニエコート」は、2009年のリニューアルの時に取り入れた、建築家の隈研吾氏のデザインによる「グリーンイーブス(緑の庇)」が特徴的ですが、建築家が描く植栽イメージをどのように具現化されたのでしょうか。

竹内さん :

まずイメージを共有させていただき、それを実現するためには、どういう条件が必要で、どのような樹種、土壌の厚みがあれば可能なのかを提案しました。

グリーンイーブス(緑の庇)

高橋さん :

竣工当初から、緑の庇として覆う植物をどれだけ表現できるかが課題でした。事前に他の場所で育てて、庇として使うために伸ばしておいたのですが、日陰と日向といった環境の違いによって植物の育ち方に差が出るため、よく見ると、いろいろな種類の植物が混在しているのがわかると思います。

竹内さん :

人が立ち入らない場所なので、蝶やハチなどの蜜源となる植物を植えており、虫たちが集まることで、鳥たちにとっても憩いの場所になっています。マロニエコートには、シンボルツリーのマロニエ(科名:ベニバナトチノキ)が植っていますが、これまでの歴史の継承を象徴するものとして、既存樹を活かしたいとの玉川SCの意向を受け、工事の際、一時的に他の場所に移植し、建築後、今の場所に植え戻しました。

高橋さん :

移植の際は、事前に根回し・剪定をした上で行いますが、敷地内に戻す際、葉がドサっと落ちたそうです。皆さん、驚かれて、このまま枯れてしまうのではと危惧されたようですが、弊社の担当者が、あれは、鳥が成長に応じて全身の羽を落とす「換羽(かんう)」(※「鳥屋(とや)」ともいう)と同じなので大丈夫ですと、ご説明したようです。移植の際には根を切って葉を剪定し、一時的に水を吸い上げる力を抑えますが、樹木自らも我が身を守るために、葉を落とします。そうしないと、樹木全体の生命力が弱くなってしまうからです。リニューアル工事期間中、施工者も樹木自らも、我が家に戻ってくるための準備をしていたわけです。

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人と生きものに配慮した総合的な植栽管理

高橋さん :

植栽管理においては、周辺環境や生態系に配慮し、農薬や化学肥料の使用を最小限に抑えた総合的な病害虫管理・雑草管理として、「IPM植栽管理」(※)という手法を採用しています。

竹内さん :

例えば、アブラムシも農薬で駆除せずに、てんとう虫に食べてもらうというように、病害虫の天敵を利用した防除を取り入れたり、特定の病害虫にのみ効果がある薬剤を選んで使用したり、多様な手法を組み合わせ、できる限り化学物質を減らします。人間同様、植物も健康維持がいちばん重要です。人工軽量土だけでは肥料成分が足りないため、しっかり腐葉土を入れて土の養分となる微生物が生きられるような土壌環境にし、しっかり根付くようにします。人間でいえば、栄養剤やサプリメントを飲むのではなく、日々の食事から栄養を摂取するのと同じです。そして、不要な剪定はせず、葉をできるだけ多く残し、光合成を促します。そうした組み合わせによって、樹木全体の健康を保つ。樹木は健康であれば、ヤニなどを出して、虫が寄り付かないよう自ら防御します。

高橋さん :

日々の管理では、スタッフが常駐し、シフトで交代しながら2〜4名で園内をモニタリングします。自動の水やりシステムが導入されていますが、場所によって届かないところもあるので、丁寧に散水します。特に5〜6月になると枝が伸び、虫も増えるので、スタッフが木の状態を見ながら、虫や枯れ枝の状態などをチェックして回り、臨機応変に対応しています。

IPM(総合的病害虫・雑草管理) | 株式会社 グリーン・ワイズ | GREEN WISE

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みんなで一緒に楽しみながら、育てていく庭として

――施設内の緑地を活用した玉川SCのイベントや緑育ワークショップにも積極的に協力し、取り組まれていますね。

高橋さん :

これまで植栽や庭というのは見て楽しむものとされてきましたが、これだけ広大な緑地があって、四季の変化が楽しめるのであれば、見るだけでなく、自然に触れることで学びにつながる発見がたくさんあると思います。

竹内さん :

庭を造るだけではなく、ここで楽しんでいただきたいという想いが強くあり、さまざまな取り組みを行ってきました。2010年に初めて実施した「屋上庭園 親子自然散策ツアー」は、散策しながら身近な自然に触れていただくミニネイチャーツアーですが、今では恒例となり、毎年季節ごとに3〜4回ほど開催しています。秋になれば、ドングリもいっぱい採れるので、お子さんのクラフト体験にも使用しますが、IPM植栽管理により、化学物質を含む農薬の使用を限定しているので安全です。自分たちが日々管理しているからこそ、見どころやポイントもわかっているし、紹介しやすいというメリットもあります。

高橋さん :

日々作業をしていると、遊んでいる子供たちから「何をしているの?」と聞かれることがよくあります。そういう時に、その場で花冠などを作って渡したり、本階3階のローズガーデンの管理なら、剪定したバラでブーケを作って、お客様に差し上げたりするような、作業をしながら自然発生的にコミュニケーションが取れる機会が増えるといいなと思っています。私たちとしては、お客様に、この場所をご自分の庭のように思っていただきたいので、例えば、ご自宅の庭の手入れをするような感覚で、私たちと一緒に庭園管理を体験していただいたり、食べられる実を収穫して一緒に食べて楽しんだり、この庭園を介して人と人がつながるようなコミュニティ形成の場として活用できればと考えています。

春のローズガーデン

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未来に向けて、緑のバトンを手渡していく

――日々、自然環境と向き合う中で感じる変化はありますか?また、緑の専門家としての立場から、SDGsに対して、どのような考えをお持ちでしょうか。

高橋さん :

平均気温が上がり、夏は異常に暑く、台風の威力も増しています。市場で出荷される花の時期も早まっていますし、生態系のサイクルが変わってきているのを感じます。

竹内さん :

気候変動の影響で冬でも暖かくなり、通常、病害虫の発生は5月くらいから始まって、10〜11月には終わるのですが、12月になっても毛虫が発生するなど、5年前には見られなかった現象が、ここ数年、顕著になっています。私たちの仕事は緑地空間を造り、日々管理し、その魅力を伝えることですが、植物は人間よりも長く生きるわけで、私たちは先のことまで考えて、いろいろなことに取り組まなければなりません。そういうすべてのことがSDGsにつながっていると考えています。

フラワーバトンプロジェクト

花や緑を「バトン」としてお客様と街とつながる フラワーバトンプロジェクト

高橋さん :

弊社は「スローグリーン」という考え方を掲げていますが、私たちを取り巻く自然の営みそのものが土地の多様性を育み、そこから生まれる恵みが、生態系や私たちの社会を豊かにしています。そういう自然に対して敬意を抱き、持続可能な社会生活を求めていくのが「スローグリーン」の考え方です。雑草もひと括りに雑草と捉えるのではなく、枯れた植物でも、その枯れゆく姿に美しさを見出すなど、その移ろいやありのままの姿を尊いものと捉えています。2020年から「フラワーバトンプロジェクト」という取り組みを玉川SCとともにスタートしていますが、そのきっかけとなったのは、館内の連絡通路に飾っている植栽を入れ替える際、そのまま廃棄するのではなく、お客様に「バトン」として引き継げないかと考えたことです。フード業界に「食品ロス」の取り組みがありますが、同じように、花の二次利用として、お客様にプレゼントし、ご自宅で育てることで、翌年も花を咲かせて楽しんでいただく。そうした緑のバトンを手渡す活動を通じて、人と人、施設と人をつなぎ、地域や環境、SDGsに貢献できるような取り組みとして広げていければと考えています。

竹内さん :

SDGsの目標17は「パートナーシップで目標を達成しよう」ですが、この屋上庭園で緑の心地よさや大切さを感じていただけたら、それがきっかけとなって、いろいろな人がつながり、仲間が増え、パートナーシップが生まれ、SDGsを前に進めていく力になっていくのではないかと思います。
この庭園の緑が未来に向けてしっかり受け継がれていくことが大切で、そのために、私たちはこれからもこの場所をしっかり守っていきたいと思います。

――ありがとうございました。

SDGs(持続可能な開発目標)

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで決まった、2030年までの達成を目指す世界共通の目標です。SDGsは17のゴールと、その目標を達成するための具体的な169のターゲットで構成されています。先進国、発展途上国問わず国連サミットに参加する193の国が採択した国際目標であることから、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。